新型iPhoneに切り替えてあれこれ

先日数年ぶりにiPhoneを買い替えた。最新型12 Proでそれまで使ってきたiPhone Xの後継とした。きっかけはコロナ禍におけるテレワーク。自宅で仕事をする時間が増え、特に夏場は家の周辺を散歩する機会が増えた。公園で子供達と遊ぶ父親など価値観の変容を感じることが増え、iPhoneで写真を撮る機会が増えたのである。それまで使ってきたiPhone Xでも素人の自分には十分な性能だっただが、LiDER搭載ということでAR系を扱っている自分にとっては必要だとも思い「Pro」の携帯電話なるものに手を伸ばしてみた(笑)。

親子で公園に
古いiPhone Xを使い近所の公園を撮影(2020.5)

しばらく使ってみての感想は、スーパーバカチョンカメラという印象。これは決して悪口ではない。我々が若かったころ、バカチョンカメラというのが流行った。要するに、バカでもチョンでもシャッターを切ればピントの合った写真が撮れる、ということで一般的なコンパクトカメラにオートフォーカスが搭載され始めた頃流布した言葉である。完全に死語ですなあ。12 Proはとにかくブレない。暗闇で黒い車を撮影してもブレない。恐るべしである。もちろんそのバックグラウンドにはアップルお得意のAI(機械学習,Machine Learning,以降ML)が活かされている。これが強み。アップルはそれまでのパソコン業務に加えて音楽(iPod)を経て電話(iPhone)へと発展させ、今やこれらの心臓部であるシリコンチップ(昔風に言えばCPU)も自前で設計するようになった。スティーブ・ジョブズと死の間際にマイクロソフト社のビル・ゲイツ氏と交わした際のことがジョブズ氏の伝記に記されている。いわく「君の垂直統合モデルも素晴らしかった」と。要するにハードからOS、ソフト、サービスまで一社で賄うことにより最適化された製品を作り出すことに成功した、ということ。まあ、今ではGAFAと呼ばれこの先どうなるのか,先行き不透明感がないわけではない。トランプ政権から変わったのでしばらく動きは落ち着きそうだが。

ともあれ、新型iPhoneで撮影した写真は素晴らしい。同社はAI(ML)に相当力を入れている。AIというと何かを予測させるのか、と考えがちだ。確かにGoogleもようやくコロナ感染予想をAIで公開した。一般の人のイメージはそこだろう。だが、アップルは元々データの扱いに慎重な会社である。Googleとはビジネスモデルが異なるのである。彼らはAIを自社製品のインターフェースデザインなどに盛り込んだ。果たして誰がそうしたAIの活用を考えたであろう。例えば、現在この文書を書いているのはiPad Proである。タッチパネルやキーボードのトラックパッドなど様々なカーソルコントローラが付いている。ユーザが画面上のボタンを指示したいのか、画像をドラッグ&ドロップしたいのかなど、ユーザの思惑は様々である。アップルはこうした判断などにもAIを使っている。あるいは、アップルウォッチを付けたまま手を洗うと「(コロナ禍だから)20秒洗おう」として計測開始。こちらも何とか褒めてもらおうと20秒以上手を洗うことを心がける。終了すると「おめでとう」と褒めてくれる。アップルウォッチのセンサーとAIを組み合わせたサービスだ。手を洗う際の音や手の動きを学習しているのだ。

もちろん、画像処理にもAIが使われる。デジタル画像のパラメータは豊富であり、素人の私には手を出しにくい。その昔Photoshopを使い始めた頃、千葉に住むプロのUさんに言われた「普通の人は「自動補正」を選ぶぐらいにした方が良い」は、今だに私の心に刻まれていて、そのようにしてきた。その後画像処理はiPad Proが中心となり、使用するアプリはPixelmator Photoへと変わった。そこでも、使うのは「自動補正」ボタンが中心。何しろ補正項目は目が眩むぐらい多いのだ(添付はパラメータの一部)。Pixelmator Photoの自動補正 はプロの画像作家たちの補正項目をMLでアルゴリズム化したというもので、当時話題になったものだ。iPhone Xまでの写真はこれで十分だった。

Pixelmator Photo
Pixelmator Photoの補正パラメータの一部

ところが、iPhone 12 Proになり状況が一変。Pixelmator Photoの自動補正を使うとしっくりとこないのだ。サンプル画像を示す。最もイメージに近いのがオリジナル。今にも大雨になりそうな夕方のキャンパス。窓の明かりが煌々と、まだ仕事に勤しむ人々を照らしている。

iPhone12Proサンプル
iPhone12Proで撮影した大雨接近中の夕方のキャンパス

これをPixelmator Photoの自動補正をすると、チンケな昼間の画像になってしまう。恐らく、iPhone 12 Proで撮影した画像ファイルに記録されているデータが、従来のMLで用いたデータと齟齬をきたしているような気がする。

 iPhone12pro サンプル
Pixelmator Photoで自動補正

つまり、それまでのiPhoneではこうした写真は撮れなかったのだ。少なくとも普通の素人は。だから、自動補正の(AIを用いた)処理とミスマッチを起こしているのかもしれない。そこで、アップル純正の写真アプリの自動補正を試したのがこちらの写真。オリジナルほどのドロドロした雰囲気は薄らいでいるが悪くはない。

写真アプリによる補正
アップル純正の写真アプリで自動補正

これこそビル・ゲイツが誉めた垂直統合型の威力。写真アプリは新型iPhoneの写真補正にも最適化されて提供されている、ということ。もちろん、Pixelmator Photoは他にも素晴らしいフィルター機能を提供するなど、自動補正以外の使い道(これが本来の使い方)があり、素晴らしい写真作りに貢献してくれているので、しばらくは使うつもり。何より、新型iPhoneへの対応があるのかどうか、上記仮説を裏付けるようなアップデートが楽しみなのだ。

話が遠回りになったが、新しいiPhoneには満足している。ナイトモードを使い手持ちで夕暮れ近くの黒い車を撮影したこちらの写真など、素人が一眼カメラで写すことが難しい写真をいとも簡単に撮影してくれる。

夕暮れの黒い車
iPhone 12 Proで撮影した夕暮れ時の黒い車

茨城に住む大恩人でプロの写真家であるH氏はこの写真を見て「高級一眼カメラもそうだけど、薄暗いところで薄暗く撮るって案外苦手なんだ。ここぞとばかり、昼間並みの適正露出を叩き出す。この写真は暗さの中で見ているイメージに近いと思う。一眼ならだいぶマイナス補正かけてるシーンだね。」とコメントしてくれた。

今後アップルは独自写真ファイルフォーマットにLiDERなどの測距データなども付加するなどして非破壊構造を強化するらしい。アプリによるマスク切り出しや色を変えるなどがワンタッチになる可能性がある。一方、ファイル容量が大きくなり5Gが欲しくなる。ちなみに小生はキャリアSIMを使っていないので相変わらずの4Gである。
これぐらい楽しませてくれた新型iPhone、コロナ禍の相棒として十分お買い得なスマホだった。「Pro」という呼び方にはいまだに抵抗感があるが(笑)。恐らく本当のPro向けはiPad Proではないかと思う。筐体が大きくCCDサイズを大きくしても余裕があるだろうし、独自チップセットを設計できるアップルであれば「でかい電話」から脱却させることも可能だろう。この先も楽しみだ。

追記:

その後,本学の体育館をiPhone 12 Proのナイトモードで手持ち撮影してみたのが次の写真です。ただシャッターを切っただけで,この画質は満足のいく出来栄えです。

iPhone 12 Proのナイトモードで手持ち撮影した夜の体育館の様子。